その踏切は自殺が多い事で有名だった。
傍らにある供養地蔵も、あまり功を奏していないらしい。
この線路は今まで一体何人の人間の血を吸ったことだろう…。
ある深夜の事。
K君は淋しい夜道を一人で帰宅していた。大学のサークルの集まりで遅くなったのだ。
やがて踏切にさしかかった。そこには真新しい花束が置かれていた。
つい先日、女子高生が遮断機をくぐり抜け急行列車に飛び込み、亡くなったばかりだった。
K君はその現場に居合わせなかったが、目撃者からは血の海だったと聞いていた。
急にそんな事を思い出してしまい、ぶるっと寒気がした。
ふと、踏切の中に誰かが立っているのに気がついた。
セーラー服を着た女子高生だった。暗くて顔が見えないが、スカートから覗く白い足が闇の中はっきりと見えた。
「ひゅーひゅーふゅーふゅ…」
奇妙な声がしたので思わず彼女の顔を見た。
だが、そこにあるのは、ぽっかり抉られた空洞がある血肉の塊だけだった。
〈顔がない!〉
その制服は破けて血に塗れていた。明らかにこの世のものではなかった。
腹の底から恐怖を感じたK君は、思わず近くのコンビニに飛び込んだ。
コンビニの中からガラス越しに恐る恐る踏切の様子をうかがうと、まだあの女子高生が立っているのが見えた。
〈あれが消えていなくなるまでしばらくここにいよう…〉
そんな事を思いながらK君は、ふと隣にいる男性の様子が気になった。
何と彼は雑誌を手に持ったまま呆然と放心状態で佇んでいた。そして真っ青な顔で踏切の方を凝視している。
「あれが見えますか?」
突然、男性はK君に踏切の方を指さしながら訊ねてきた。
彼もK君と同じく、女子高生の幽霊が見えていたのだった。
奇妙な所で意気投合したK君とその男性は、しばらくコンビニの中で一緒に震えていた。
やがて女子高生が消えた後、二人で夜道をとぼとぼと帰ったという。
[リアルライブ]
その後、K君とその男性はつきあう事になりました。
今では彼に夢中みたいです、
すべて踏切の彼女のおかげだと言ってます。
チッ
俺専用だったのに余計な事を……
「踏切の天使」…完