「おなかを刺された女の子が苦しんでいる姿を見たかった」。
兵庫県姫路市で平成27年5月、女子中学生がナイフで腹部などを何度も刺される殺人未遂事件が発生。
逮捕、起訴された同県加古川市の無職男が捜査で明らかにした動機は、少女が苦しむ姿を見ることが〝性的興奮〟に結びつくという特異な性癖によるものだった。
自分好みのかわいい女子中学生を長時間、街中を徘徊(はいかい)して見つけ、犯行に及んでいた。こうした性癖を持つに至った経緯は、さらにおぞましい。
もともと、自分の腹部を刺してゆがんだ欲望を満足させる自傷行為を行い、医者から「これ以上やると重篤になる」と止められた末、「自分の腹を刺せないなら女の子を刺したい」と犯行を思い立ったという。
腕をつかみ、何度も突き刺す
「ちょっといい?」
昨年5月11日午後4時55分ごろ、兵庫県姫路市の路上。学校から帰宅途中の当時14歳の中学3年だった女子生徒は、自転車にまたがった勝田州彦(くにひこ)被告(37)に声をかけられた。
次の瞬間、勝田被告は女子生徒の右腕をつかみ、持っていたナイフで両腕や胸、腹などを数回突き刺した。女子生徒が大声で助けを求めたため、勝田被告は近所の住民に目撃されることを恐れ、自転車に乗って逃走した。
女子生徒は病院に運ばれ命に別条はなかったものの、全治1カ月の重傷を負った。
夕方の平穏を切り裂いた通り魔事件に地域は恐怖に包まれたが、防犯カメラの映像などから勝田被告が浮上。事件から8日後に逮捕された。
「刃物で刺したが、殺すつもりはなかった」と容疑を一部否認していた勝田被告。神戸地検姫路支部は約4カ月間の鑑定留置で専門家による精神鑑定を行い、犯行時に責任能力を有していたと判断、殺人未遂罪で起訴した。
事件から約1年後の今年5月、裁判員裁判の公判が開かれた。そこで明らかになったのは、勝田被告が抱いていた「腹部を刺すこと」への尋常ならざる執着だった。
自転車で2時間物色
公判での証拠調べや公判資料をもとに、勝田被告の心中や状況を再現する。
勝田被告は犯行日の27年5月11日午後2時ごろ、加古川市内の自宅を出発。姫路市内のショッピングセンターに車を止めた。前日に自分好みのかわいい女の子を外で見かけており、気持ちが高ぶったことが引き金となった。
以前から市内のアニメショップに行くために駐輪していた自転車に乗り換えると、好みの女子中学生を探しに出発する。なぜ女子中学生だったのかというと、「抵抗されないから。(もっと年下は)かわいそうだから考えなかった」(勝田被告)。
防犯カメラを避けるため、顔を隠すように赤色のキャップをかぶり、マスクを着用。後の捜査を避けるため、防犯カメラが設置されていないような細い道を中心に、市内を徘徊した。
徒歩で下校途中だった中学3年の女子生徒を発見したのは、行動開始から約2時間後。「やっと見つけたと思った。かわいかった」と思ったという。
勝田被告は、女子生徒が進むであろう細い路地の反対側へ先回りして向かい合う形に。周囲から見えにくい路地の「く」の字に曲がったポイントを犯行場所に選び、すれ違う際にナイフを突き付けた-。
「おなかではなく腕に刺さったので、おなかに刺さるまで刺し続けようと思い、5回刺した」(勝田被告)
自分の腹を刺しすぎてドクターストップ
勝田被告を犯行へと駆り立てた背景には、事件から約2カ月さかのぼる3月の出来事があるようだ。
勝田被告は自らの腹部を刺す自傷行為をし、出血が止まらなくなって救急搬送されていた。
医師が診察すると、腹部を刺しすぎて腸が傷ついていた。当時、医師は「このままでは腸閉塞(へいそく)になる恐れがある」と勝田被告に告げたという。
被告人質問によると、腸が傷つくほど腹を刺すことを勝田被告が始めたのは、中学3年のときに受けた「いじめ」がきっかけだった。
「自分の腹を刺して血が出てくるのを見ると落ち着いた」。以降、人間関係で過度なストレスがかかると、それから逃れるために自分の腹部を刺すようになったらしい。
高校生になると、それがさらにゆがんでいく。
美少女キャラが登場するアニメに熱中するようになり、女の子が苦しむ様子を見たいという衝動が強まったのだ。
シャツを着たまま自分の腹部を刺したとき、流れ出る血がシャツを染めていくのを見て女の子が腹部から血を流して苦しんでいる姿を想像し、〝性的興奮〟を得るようになった。
高校卒業後、海上自衛隊に勤務するが、集団行動になじめず、半年足らずで退職。以後も郵便局や運送会社などで働いたものの、いずれも長続きしなかった。
職場での人間関係によるストレスから逃れたいという思いから自傷行為を続ける一方、性的衝動に抗しきれなくなり、ついに一線を超えることになる。
サディズム型ペドフィリア
勝田被告は12年、女児6人に対し、腹部をげんこつで殴ったり、下腹部を触ったりするなどした暴行や強制わいせつの罪で有罪判決を受けた。腹部を殴られ苦しむ少女の姿を見て性的衝動を解消しようと、犯罪に手を染めるのだ。
10年後の22年には、再び女児の腹部をげんこつで殴るなどした暴行、傷害罪で懲役4年の実刑判決を受け、服役した。
それでもなお衝動は消えず、今回の殺人未遂事件に発展した。
勝田被告の精神鑑定を担当した医師は法廷で、他人に身体的心理的な苦痛を与えることに性的興奮を抱く「性的サディズム障害」と、子供に対して性的興奮を抱く「ペドフィリア」(小児性愛障害)が複合した「サディズム型ペドフィリア」と説明した。
犯行に至る誘因の一つとして、勝田被告が自傷行為で入院したことを挙げ、「自傷行為ができず、性的な快感が得られない抑圧された状況の中で犯行への衝動性が高まっていったのではないか」と分析した。
こうした点を弁護側は、両親の厳しいしつけと中学時代に受けたいじめによって心理的な抑圧を受け続けてきたことが、性癖の形成に結びついたと主張した。
これに対し、検察側は「面識のない女子中学生の腹などをいきなり刺した通り魔事件。性的興奮を得るため腹を狙って執拗(しつよう)にナイフを突き刺し重傷を負わせるなど、犯行や動機の悪質性が際立つ」として懲役15年を求刑した。
「再犯防止見据えた治療不可欠」
今年5月18日、神戸地裁姫路支部は勝田被告に対し、懲役12年の実刑判決を言い渡した。
木山暢郎裁判長は判決理由で、弁護側の主張を「いじめなどの影響は自傷行為だけにとどまっており、少女の腹部を刺したいと思うようになったのは、もっと後のことだ」と退けた。
その上で「防犯カメラを避けるために服装を変えるなど計画性が高く、腹部をナイフで執拗に狙った犯行態様も悪質」と指弾。「少女の腹部を刺したいという身勝手な動機で、少女に死を覚悟するほどの恐怖を味わわせた」と断じた。
甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「殺人未遂という罪名での量刑としては妥当だと思うが、今回の事件は被告の特異な性癖が根源となっており、殺人未遂という客観的事実だけを見て性癖の部分を度外視しては再犯を防ぐことはできない。
矯正プログラムなどを行う場合には、本人に自分の性癖と向き合い、考えさせる時間を設けるなど、再犯防止を見据えた治療が不可欠だ」と話す。
判決言い渡し後、木山裁判長はこう説諭した。
「時間を無駄に過ごすことなく、どう生きるのか、どう世の中に貢献できるかを考えてほしい。他人に治してもらおうとするのではなく、他人の助けを借りながらも自分で主体的に立ち直りに向けた取り組みをしてほしい」
この言葉は勝田被告の心にどう響いたのか。
判決から6日後の5月24日付で、勝田被告側は「量刑不当」として大阪高裁に控訴した。
[via:http://www.sankei.com/west/news/160728/wst1607280002-n1.html]
許せん!
自分の腹でも刺してなさい!