「おかしい。顧客が戻らない」。2012年夏、日本マクドナルドホールディングス会長兼社長の原田泳幸(64)は手元に上がってくる販売実績に首をひねった。11年夏は福島原発事故に伴う節電で売り上げが減ったが、12年には戻ってくるとの読みがあった。何が問題なのか。自問自答した結果、一つの結論に至った。「もはや100円メニューにお得感はない。新たなバリューの提供が必要だ」
戦略練り直しが必要と見た原田は世界のマクドナルドから助っ人を呼んだ。店舗オペレーション歴37年のベテラン米国人とマーケティングのプロのオーストラリア人女性だ。そして5~6人の日本人社員とともにプロジェクトチームを作り、新たな成長戦略を作り上げた。
「マクドナルドは戦略転換を図る」。12年11月、原田は東京と大阪で店長ら3000人にこうぶち上げた。
内容は60秒無料サービス、リピーター率が80%を超える定番品「ビッグマック」の活性化、朝食メニューの強化などだ。この頃には年間の既存店売上高が9年ぶりにマイナスになることが確実だった。原田は「今年は新商品にインパクトもなかった。負けることもあるよ。まあ、いささか反省はしているけどね」と苦笑した。
13年1月。新戦略が動き出した。話題になったのは注文から60秒以内で商品を提供できない場合、ハンバーガーの無料券を渡すキャンペーンだ。
週刊誌やネットで60秒破りの方法が紹介され、「現場泣かせだ」「制限時間にこだわり商品が崩れている」との批判も多い。もっとも原田は「ネットの批判はごく一部」と意に介さない。
多少の損失は織り込み済み。話題性と出来たて商品を出すマクドナルドの価値を訴える方を優先した。
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