学生の街であり、観光地でもある京都。
女性が大勢集まることから「盗撮スポット」と化している場所もあり、卑劣な盗撮犯があの手この手で女性のスカート内を狙っている。だが、まんまと逃げおおせるわけがない。
大学野球の試合で盗撮したとして大阪府茨木市の会社員の男(50)が書類送検された事件では、京都府警は立件が難しい「チアリーダーの盗撮」にこぎつけた。
屈指の観光地・嵐山周辺では約1カ月間の集中取り締まりを実施し、4人を摘発。担当者は「まだ氷山の一角。これからも摘発を進める」と手を緩めない。
スタジアムで不審な男をマーク
昨年10月21日、金曜日の昼下がり。京都市右京区の野球場「わかさスタジアム京都」では、大学野球の関西学生リーグの試合が開催されていた。スタジアム全体が観客の声援に包まれる中、京都府警の捜査員はスタンドで不審な男を発見した。
男は、荷物を持って何かを物色するようにスタンドをうろつき、前の方の席に腰を下ろした。男の後方には大学の応援団がいて、チアリーダーたちが華やかさを演出していた。
やがて男は、目の前の試合をよそに腕を組み、居眠りをし始めた-。周囲の観客には、そう見えたに違いない。だが、捜査員の目はごまかせなかった。
「おかしい、盗撮する気や!」
男が脇の下にしのばせた小型ビデオカメラの「録画中」を示す赤いランプを、捜査員は見逃さなかった。
そのカメラのレンズは、後方で応援していた大学2年のチアリーダーの女子学生(19)の下半身を狙っていたのだ。
「ちょっと、話を聞かせてほしい」。捜査員らが男に職務質問すると、「すみません」と男は素直に罪を認めた。
営業の外回りにかこつけて
「2~3年前にチアリーダーの盗撮ビデオを買って見て以来、やみつきになった」。府警の調べに対し、男はこう供述した。
普段、仕事では営業担当をしているといい、主に外回りの最中に野球場などに足を運び、チアリーダーばかりを狙って盗撮していた。「近畿各地だけでなく、関東でも盗撮をした」とも話したという。
男のカメラからは、チアリーダーの尻や太ももばかりが写った動画ファイルが100個以上も発見された。理由は「妻子がいるので自宅のパソコンには保存せず、鑑賞用にカメラに保存していた」からだった。
そもそも捜査の発端は、昨年4月上旬にさかのぼる。大学の応援団長とチアリーダーが府警右京署を訪れ、「チアリーダーに対する盗撮を取り締まってほしい」と要請したのだ。
その前日、同じわかさスタジアム京都でチアリーダーが被害に遭っていたといい、同署を訪れた学生らは「(チアリーダーの)スカートは短いが、華やかに応援するためのもので盗撮されるために着用しているわけではない。取り締まってほしい」と切々と訴えたとされる。
この要請を受けて府警は、同スタジアムでの警戒を強化していた。
だが、チアリーダーにカメラを向けているからといって盗撮しているとは即断できない。応援風景を撮影していただけだと強弁されかねない。
これに対し、府警は今回、男の撮影方法などの状況に加え、男の撮影した映像を丁寧に分析。明らかにわいせつ目的で撮影していたと断定し、立件に踏み切った。
男は京都府迷惑行為防止条例違反容疑で書類送検され、今年2月、罰金30万円の略式命令を受けた。
「土産物に集中していて無防備」狙われる観光地
こうした盗撮は、京都で大きな問題になっている。
府警は以前、「盗撮スポット」としてインターネット上で紹介されていた世界遺産・清水寺(京都市東山区)で取り締まりを強化し、男7人を摘発した。
以降、清水寺は「盗撮スポット」から一転、警察の監視の目が行き届いた場所となった。だが、盗撮犯は場所を移しただけとみられ、同じく観光名所の嵐山など別の観光地での犯行が横行し始めた。
そこで府警は昨年秋、嵐山周辺で集中取り締まりを実施。4人を摘発したが、紅葉シーズンの修学旅行生らをねらい、スカート内にカメラを差し入れるなどの犯行だった。
摘発された男らはこう供述したという。
「(観光地には)修学旅行中のミニスカートの学生が多い」
「土産物に集中していて無防備」
機器が進歩していることもあるのか、手口も巧妙化している。
集中取り締まりで書類送検された徳島県鳴門市の会社員の男(58)の場合、桂川の河川敷に陣取ると、約140メートル先の対岸に座っていた女性のスカート内を、望遠カメラで盗撮していた。
カメラを構えていても、観光地では風景を撮影しているだけにも見え、盗撮だとは気づきにくいだろう。
もちろん被害は観光地にとどまらない。
京都では最近も、商業施設で、離れた場所から乗用車のロックを解除できるキーレスエントリーに似た小型カメラを足首にくくりつけ、スカート内に差し入れたとされる男(30)や、駅のエスカレーターで膝の上にスマホを載せて一歩前に踏み出し、前に立っていた女子高生のスカートの中を盗撮したという男(33)が、逮捕されている。
気づきにくい背後の不審者
「被害にあっても気づいていない女性がほとんどだ。特に話しながらやスマホを操作しながらだとなおさらだ」。ある府警幹部の分析だが、実際に、後方から近づく人物には気付きにくいのだろうか。
府警東山署は1月、女子大学生らを対象に、夜道で後を付ける不審者の気配に気づくかどうかを体験する防犯教室を開催した。
「一人ずつ歩いてみて」。すっかり日が落ちた午後7時、署員の指示で参加者はスマホを操作しながら鴨川河川敷を歩き始めた。
途中、黒いコートとサングラスをした不審者役の警察官が座って待ち伏せていた。参加者が通過すると、背後から、無言のまま約20メートルほど後ろを付きまとった。
警察官は体が密着しそうな距離で接近していたのだが、まったくといっていいほど気づかれなかった。
8人のうち不審者の存在に気がついたのは3人という結果だった。気づかないと答えた参加者は「通行人が多くて人の気配が分散している」「スマホに集中していると周囲に気づきにくい」などと話していた。
やはり歩きスマホを止めたり、周囲を警戒したりすることは重要なようだ。
ある捜査関係者は盗撮犯について「盗撮する瞬間の、気づくか気づかれないかのスリルを楽しんでいる面もある。本人らにとって盗撮は趣味みたいになっているようで、たちが悪い」と指摘する。
これから春の観光シーズンを迎える京都。女性の服装も次第に肌の露出が多くなる。府警は「まだまだ氷山の一角だ」としており、観光地やスポーツ施設での盗撮について警戒を強める方針だ。
[via:http://www.sankei.com/west/news/170330/wst1703300002-n1.html]