あの「ハーバード・ビジネス・レビュー」にも紹介された
高校時代に当時文部省派遣で米国に留学した同期に、スペイン大使、国連大使などを含めて複数の大使がいる。
数年前の同窓会で、「あれほど大騒ぎしていたソマリア沖の海賊が、いつの間にかいなくなったけど、それには『すしざんまい』の社長が関与していると聞いたが……」と話題になった。
その噂は、ハーバード・ビジネス・レビューが紹介してから、CNNやBBCも放映して、世界ではかなりの話題なのに日本では知られていないのはなぜかとなった。
サウジアラビアやイエメンなどがある砂漠の巨大なアラビア半島と、スーダン、エチオピア、ソマリアなどがあるアフリカ大陸の間にあるのが紅海である。
地中海からスエズ運河を通過して、南へ紅海を通り、ソマリア沖のアデン湾を抜けると広大なインド洋へと開ける。欧州とアジアを結ぶ海路の大動脈で、年間2万隻の商船が往来している。
その海域で機関銃やロケット砲で武装した海賊が頻繁に出没して、2008年だけで580名の船員が人質にされて膨大な身代金を要求されている。
漁船を改造した高速艇だから、襲撃してくるまで漁船なのか海賊なのか不明であり、脅威は海運業界に大きな負担を強いて国際問題となっていた。それが2013年頃から急に海賊がいなくなったのである。
築地場外市場に本店がある『すしざんまい』を経営する喜代村の社長は、正月の初競りでマグロを1億円前後の最高値で買い上げる話題の主、木村清氏。その木村社長に直接会って話を聞いた。
「好き好んで海賊をやっているんじゃない」
ソマリア沖はキハダマグロが獲れる良い漁場なのだが、海賊の出没騒ぎで漁ができなくなった。調べてみると、誰も海賊たちと話したことがないという。海賊だって同じ人間なのだから会って話を聞いてみようと、ソマリアに出かけた。
内戦が続いてボロボロになった国では、生きていくだけでも悲惨な日々で、それは漁師たちも同じだ。貧困と飢えは、目の前を往来する世界中の船団、「宝船」に目を向けさせた。
漁師たちはついに禁断の大海原の強盗と化してしまい、平和な海は無法地帯になった。ところが彼らと話してみると、好き好んで海賊をやっているんじゃない、ただ生きるためだと言う。じゃあ、マグロを獲ればいいじゃないか、もっと誇りを持った人生にしなくちゃいかんと話した。
「マグロ漁の方法は教える! 漁船も私がすべて調達して、まず4隻を持ってきて与える! もちろん、ソマリア国内にマグロの冷凍倉庫や流通設備は私が整えるし、そのマグロはすべて買い取る! そうすれば本来の漁師に戻れるだろ! 船も確保されて、売り先も心配ないとなれば、何も問題はないだろう!」
そうして、年間に300件以上も発生していた海賊襲撃被害は2014年以降からパタッと消滅した。正直、まだ採算はとれていないが、利益が出る目論見は立っているという。
「商売は、目先の利益を考えたらいかん。どうやったら喜んでもらえるか、何を求められているかに応えるのが商売だ」
その年に、アフリカ・ソマリア沖の海賊問題解決とマグロ漁場開拓のため、ソマリアの新政府に民間による漁業支援を申し出た。
和食が世界的にブームになり、乱獲で漁獲量も激減し始めていたから、ソマリアの件がうまくいけばマグロが入手できる上に海賊行為もなくなるという一石二鳥の名案であった。《後略》
[via:PRESIDENT Online]
https://president.jp/articles/-/53053
※黒木安馬『雲の上で出会った超一流の仕事の言葉』の一部を再編集
ノンフィクション作家が指摘「武勇伝はインチキ」
しかし、これに反論したのがノンフィクション作家の高野秀行氏だ。海賊が激減したのは事実とはいえ、それは別の理由があるという。
なぜか「すしざんまい」の社長の話題がネットで盛り上がっている。
ソマリアの海賊を一人で絶滅させたとか。
そんなわけがないだろう。もしそうだとしたら、とっくに世界中で大ニュースになっているはずだ。日本の一業者がソマリアの海賊を全部退治したなんていうのは、ネッシーや雪男が捕まったという話と同じくらいの途方もないニュースだ。
海賊の激減とすしざんまいには何も関係はない。たとえすしざんまいで元海賊を漁師や船乗りに雇っても、他の人間が海賊をやるから同じことだ。
ソマリの海賊が激減したのは、一般の船舶が武装護衛をつけるようになったことがいちばん大きい。従来は丸腰だったから襲われるのは無理もなかった。
ところが2,3人でも護衛をつけると大違い。なにしろ通行する船はでかい。海賊は下からはしごをかけて上がっていかねばならない。それを上から銃で撃てば、海賊は手も足も出ないのだ。
2番目の理由は、自衛隊を含む各国の海軍が警備を行っていることだろう。 まあ、仕事がなくなった海賊の一部はすしざんまいで助かっているかもしれないが。
というか、ちゃんと操業してるんだろうか。単にカモネギになっているだけじゃないかという気がしてならないのだが…。
『謎の独立国家ソマリランド』で私が書いているように、ソマリアの海賊は9割方が事実上の独立国家「プントランド」から出陣していた。海賊の原因が「貧困」だと言う人が昔も今もいるが、それも単なる固定観念にすぎない。
貧困者が海賊をやるなら、世界中の海で海賊が跋扈していることになる。そしてそんなことは全然起きていない。
他の大多数の貧しい国でも海賊がいないのは、そこの政府が取り締まるからだ。そして、なぜプントランドに海賊がわんさかいたのかというと、プントランド政府が黙認していた、もっと正確にいうなら利益を共有していたからだ。
[via:http://aisa.ne.jp/mbembe/archives/3946]
こうして反論を読んでみれば自衛武装と政府の力で海賊が減ったという話のほうが信憑性がある。また、ソマリアの海賊は実はプントランドの人間で政府が黙認していたという裏話も興味深く、やけに説得力がある説ではないか。
ここで改めて木村社長のインタビュー記事を読み返してみると、「国の援助は上滑りで役に立っていない。海賊被害が0件になったのはうちのおかげ」と主張している。
いろんな国や国際機関も援助をやっていますが、どれも上滑りのことばかりであまり役に立っていないことも少なくありません。相手の視線に立って、相手の悩みに気がついてあげることが必要なんです。
ソマリア沖じゃ一時は年間300件、海賊による被害があったそうですが、うちが行くようになって、この3年間の海賊の被害はゼロだと聞いています。よくやってくれたと、ジブチ政府から勲章までいただきました。
[via:http://hbol.jp/77365]
つまり、高野秀行氏の見方とは真っ向から対立する考え方だ。一体どちらの話が本当なのだろうか。ネット上は木村社長に懐疑的な人が多く、第三者として客観的な立場で物事を捉えた高野秀行氏の説を支持する声のほうが多い。
高野秀行氏は2013年に「謎の独立国家ソマリランド」で第35回講談社ノンフィクション賞を受賞しているだけにその信憑性はかなり高いと考えて間違いない。
では木村社長がジブチ政府から勲章をもらったと主張しているのは何なのか。
それは多額の設備投資をしたことで感謝されただけと指摘する声も少なくない。マグロ漁を始めるにあたっては漁船と巨大な冷蔵倉庫が必要になるのではじめに億単位の金が一気に動く。
その後の定期的な魚の買い取りも経済を活性化させる。地域経済に貢献したという意味での表彰であり、海賊の減少とは関係ないという可能性は否定しきれない。
また、何か詳しい事情を知っていそうなTwitterユーザーは、すしざんまいの実態について面白い表現をしていた。
「すしざんまいは海賊国家プントランドと手を組んでマグロを密輸している状態なので、すしざんまいも海賊の一味になっただけ」。
また、すしざんまいについては元従業員が「ここはブラック企業。社長を崇め称えないといけない宗教みたいな会社で、社員は必死に社長のご機嫌取りをしている」などという告発も多数聞かれる。
すしざんまいの武勇伝はガセざんまいだったのか。
[via:netgeek]
http://netgeek.biz/archives/65078
【関連リンク】
すしざんまい社長はソマリア沖の海賊を壊滅させたのか?
「海賊を漁師に」、漁業育て海賊撲滅を目指すNGO ソマリア|CNN
ネットの反応
・これはノーベル平和賞ものですね!
・単純に年始のオッチャンだったのが、印象が全然変わる
・武力じゃなくて生きる道筋を示して問題を解決するって素晴らしい!
・魚を与えればその日飢えずにすむが魚の釣り方を教えれば一生飢えずにすむ
・事実なら男前すぎる
・眉唾話だけどあの社長の押しの強さならありえなくもないかもと思う
・ある意味ではマジの「海賊王」じゃね?ワンピースの正体はマグロだった?
・すしざんまいは海賊組織だったの?
・今度はキハダマグロが全滅するくらい乱獲しそうだわ
・マグロ枯渇待ったなし
・何でこの話が日本ではあまり知られていないのでしょうか?
>何度も何度も記事になってる
・多少盛ってても良い話だわ
・ひどい提灯記事だな
・助成金不正が報じられたらこうやって上書き、払拭させるための記事を書かせる
・この話4,5年前に見た気がするんだが
・まだ黒字化出来ていなかったんですね。
・たった4隻の船与えただけで消滅するのかよ
・この頃は各国が軍隊を派遣して警備を強化していた頃なので、減るのは当たり前
・普通に内戦が終わったから。
・中国に設備乗っ取られて海賊へ戻るお話
・蟹工船のソマリア版か ブラック職場で海賊する気力もなくなった
・新人研修にセクハラしたオッサン持ち上げすぎだろメディア
・各国の監視が強くなって段々と海賊行為しにくくなっていったところに、真っ当な道でやっていけばええやんという社長のビジネス援助がうまく噛み合った感じなのが実態といったとこだろう
・すしざんまいは手を広げているだろう。あれは武器を持っていない事と全てを受け入れるハグの構えを表している。
>いや、あれは抵抗したら、お前を寿司ネタにしてやるぞって言う脅し
>不知火型だろ
[追記]記事削除して謝罪
ニュースサイト「プレジデントオンライン」は2021年12月24日、前23日に配信した記事「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた”すしざんまい社長”の声かけ」を削除したと発表した。
同記事をめぐっては、ツイッター上で大きな注目を集め、一時は「ソマリアの海賊」などの関連単語がトレンドに浮上した。
「掲載前の事実確認が疎かでした」
プレジデントオンラインが配信した記事は、あさ出版が発行した黒木安馬さんの著書「雲の上で出会った超一流の仕事の言葉」の一部を再編集したものだ。
内容は、寿司チェーン店「すしざんまい」を運営する喜代村の木村清社長の活動を伝えるもので、木村社長が自らソマリアに出かけ、海賊たちにマグロ漁を教えると、国際問題となっていた襲撃被害が消滅したとしている。
さらに、このエピソードはグローバル・マネジメント誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」でも紹介されたという。
プレジデントオンラインは翌24日、同記事を削除した。理由については、ツイッターでこう伝える。
「当方で12月23日に配信した記事『ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた”すしざんまい社長”の声かけ』は、内容が事実と異なるため削除しました。本件が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された事実はありません」
そのうえで「掲載前の事実確認が疎かでした。お詫び申し上げます」と謝罪した。
[via:J-CASTニュース]
https://www.j-cast.com/2021/12/24427901.html
ネットの反応
・なんやそれ
・ハーバード・ビジネス・レビューにも載ってなかったのね。
>ここだけカットしたらええやん。なんで記事全文を削除するの?
・ホラも100回言えばホントになる
・初競りに向けての見え見えの上げ記事だったよね
・何処が違うかは書いとけよw
・謝罪するのであればどこまでが事実でどこまで事実でないまで書くのが誠意ではないんだろうか?情報に踊らされるのもどうかと思うが訳の分からない臆測が飛びかねない。
・日本人はスゴいとホルホルしてたネトウヨw仮に本当でもスゴいのは社長本人であってお前らじゃないから
・「日本すごい!」と気持ちよくなる前に、まずデマだと疑わなきゃね
・ほとんどの起業家の武勇伝なんて盛ってるだろ 実際はコネとか金ばらまいたとかそんなもん
・すしざんまいの社長が吹かしてた武勇伝を真に受けて記事にしたってのがオチでしょ
>すしざんまいの社長が否定してた。社長単独じゃなく国の関係各署と連携して対応したと。
・この話は前にも一度誇張されて報道され、2016年にヤフーニュースで検証されてたのに、ぜんぜん学習していない。問題はいい加減な美談でメシを食おうするコンサルの姿勢です。社長にとってもいい迷惑。
・数年前のフェイクニュースを再利用してまた同じようにネット民が釣られる
・今も元記事しか読んでなくて、「感動した!」で止まってる人が相当数いるということ。ここがフェイクニュースの厄介なところ。