厚労省が唱える1日の塩分摂取量の目安は、男性は8グラム、女性は7グラム未満である。
生活習慣病の予防が目的の数字だが、他の機関はこれよりさらに低い数字を基準にしていると知れば、取り上げる外食チェーンのメニューの“過剰摂取”のほどが分かるというものだ……(以下は「週刊新潮」3月14日号掲載時点の情報です)。
まさに「減塩」は国民的課題。
では、外食チェーン店のメニューには、どれだけの塩分が入っているのか。中華料理、ファミレス、牛丼・和食、カレーの4分野の全国チェーン店のうち、HPなどで、全メニューの塩分量を公開している15店舗を例にとってみた。
これらの店のメニューのうち、WHOの目標値を基準に、食塩相当量が5グラムを超えるものをピックアップしてみた。つまり、これらは1日の基準値をたった1食で超えてしまう超「塩分過多」ということになる。継続的に「食べてはいけない」メニューと言える。
それが掲載の表だ。やはり外食、と言うべきか。あまりに該当するものが多過ぎたため、最大でも1店10メニューに留めた。表の店名の下にあるのが、それぞれの店の5グラム超えメニューの総数である。
4分野のうち、塩分量が多いメニューの割合が高かったのは、まず中華、続いて和食系チェーン店。比べて低めだったのは、ファミレスやカレーチェーンだった。
一般的に和食、中華、韓国料理などは塩分を多く用い、洋食はそれほどでもない。その傾向がそのまま反映している印象だ。
まずは、最も塩分量が高い傾向にある中華・ラーメンを見てみよう。
長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」、ラーメンを中心とした「日高屋」「幸楽苑」。いずれも全メニューの4~5割が、たった1食で1日の基準を超える塩分を含んでしまっている。
「リンガーハット」と言えば、「野菜たっぷり」と冠する定番メニューを設けるなどヘルシーなイメージがある。しかし、こと塩分に関してはそうではない。
管理栄養士で食生活アドバイザーの堀知佐子氏によれば、
「ちゃんぽんはスープの塩分が高いのに加え、具の野菜炒めに味を付けるために、塩分を多く含んだ調味料を使っているからでしょう。スープのない皿うどんでも、具の野菜炒めと餡の味付けに多くの調味料が用いられていると思います」
他方、ラーメンを主力商品とする「日高屋」「幸楽苑」は、やはり麺類の塩分量が高い。両店で出される麺類は、すべてが5グラム超えのすさまじさである。8グラム、9グラム、10グラムという数値も散見される。
市販のカップラーメンでも8グラム以上のものはほとんどないから、外食ラーメンはよりひどいと言える。
もちろんこれはスープをすべて飲んだ場合の値だ。中には、「オレはスープを残すから大丈夫さ」と安心する向きもあるかもしれない。
しかし、管理栄養士で、京都医療センター臨床研究センター研究員の河口八重子氏は言う。
「仮にスープをまったく飲まなかったとしても、全体の塩分量の半分程度は身体に入ってしまうと考えた方がいい。スープは麺に絡みつきますし、麺そのものにも塩分が入っています」
やはりラーメンは油断ならないのである。
牛丼の4チェーン、危険度ランキング
続いて、牛丼・和食。「すき家」「吉野家」「松屋」「なか卯」の4チェーンである。
これらを比較すると、5グラム超えのメニューの割合が高いのは、「すき家」「松屋」「なか卯」「吉野家」の順。とりわけ「すき家」は、中華チェーンに匹敵する割合だ。この意味では、牛丼を食べたいなら、この逆の順番で、と言えるのかもしれない。ただ、
「注意しなければいけないのは、みそ汁の扱いです」
とは横浜創英短大の則岡孝子・名誉教授(栄養学)。
「みそ汁には1杯で2グラム程度の塩分が入っている。また、豚汁はみそ汁と比べて具が多く、その分、味が薄まるので、さらに味噌の量を多くする傾向にある。これらを合わせて注文すると、一気に1食の塩分量が上がってしまいます」
確かにこれらを付ければ、1食5グラム超えのメニューは相当量増えるであろう。
他方、ファミレスやカレー店は、比較的、塩分量は少ない。
が、もちろんその中でも差があって、まず、塩分が高いのは、「バーミヤン」。これは中華系のファミレスだから、当然と言えば当然か。
12・3グラムと今回の表の中での最高値を示した「バーミヤン定食」もあるし、驚くのは、「おこさまメニュー」のはずの「ラッキー中華セット」でも、7・1グラムの数値が出てしまっている点である。
逆に、“好成績”を収めたのは、イタリアンレストランの「サイゼリヤ」とカレーの「CoCo壱番屋」。5グラムを超えるメニューの割合は1割を切っている。
どうしても食べたい時には…
「塩分を多く含む食品は避けるべきですが……」
とアドバイスをするのは、女子栄養大学の小澤啓子・専任講師である。
「それでもこうしたメニューを食べたい時は、カリウムが多く含まれる食品を一緒に取り入れると良いでしょう。カリウムには、ナトリウムの排出を促す働きがあります。
代表的なのは、ほうれん草、ブロッコリー、にんじんなどの野菜や、バナナやオレンジ、キウイなどの果物が挙げられます」
サラダを付けたり、食後にデザートとしてフルーツを食べたりするのが有効、というワケなのだ。
また、塩分に関しては、比較的安全に思われるCoCo壱番屋でも、落とし穴はある。付け合せとして無料で食べられる福神漬。こちらは15グラムで1・1グラムもの塩分がある。
また、サイドメニューのらっきょうも9~10個で1・4グラムもの塩分が含まれるのだ。これらを摂れば、「ココイチ」でも5グラム超えの食事はグンと増えるかもしれない。
これら塩分過多の状況をどう考えるのか。各社に問い合わせると、
「スープを完食した場合の数値です」(日高屋)
「スープをすべて飲み干した場合になります」(幸楽苑)
「スープやソース部分の塩分が反映されている」(すき家、なか卯、ココス)
等の指摘はあったものの、社によっては、減塩を意識する姿勢を窺わせる回答もあった。
「塩分過多は、高血圧だけではない。胃がんの原因にもなります」
と、警鐘を鳴らすのは、新潟大学の岡田正彦・名誉教授である。
国立がん研究センターのHPでも、塩蔵食品は、胃がんのリスクを上げる可能性が大きいと報告されているが、
「塩分を摂りすぎると、細胞の中の水が出ていき、新たに塩分を含んだ水が染み込んでいく。その際、細胞が破壊され、それを修復する時にコピーミスが起き、がん化をうながすのです」(同)
現代の生活の中で、外食をゼロにするのは困難だろう。
しかし、漫然と外食チェーンに通い、“塩漬け”の食生活を送り、がんのリスクを高める。そんな悪夢を避けるためには、まずは外食チェーンの本質とは何かを知ることが第一歩である。
[via:デイリー新潮]
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/05020801/