「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「HIROさんに~していただいた」(EXILE TRIBE)
「卒業させていただく」
こういった敬語の表現を、最近よく耳にします。
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」は、いわゆる“ファミレス敬語“です。ファミリーレストランなどでよく聞かれる表現であるために、俗語としてこう呼ばれるようになりました。
そして、身内の行為にもかかわらず、EXILE TRIBEの人たちが「HIROさんに~していただいた」、若者が「母に買っていただきました」と言ったり、別に特に許可がいる場面でもないのに「卒業させていただく」と言ったりする“謙譲語もどき”も増えています。
敬語の「乱れ」ではなく「変化」
これらを「敬語の過剰化」、あるいは「敬語の乱れ」だと思う大人は少なくないでしょう。
日本語の敬語はそもそも複雑で、習得に時間がかかります。だから、子供が使うのは難しいですし、難しいからこそきちんと使えることが教養の証として賞賛され、「新用法」が糾弾されます。
しかし実は、言語学者たちはそうは見ていません。「日本語が変化している」のだと見ています。
そもそも敬語そのもののあり方が変わってきていて、若者たちはその目的や機能、そして日本語の文法規則において、ある意味、自然な使い方をしていることが多いので、こんなにも素早く変化し、浸透してきているのです。
まずは、21世紀に入ってから目立ってきた、「よろしかったでしょうか」という、いわゆる「ファミレス言葉」について考えてみましょう。
「ファミレス言葉」の過去形の意味
1.「部長。先ほど部長がおっしゃっていた方が見えたので、応接室へお通ししておきましたが、よろしかったでしょうか」
2.「ご注文は、カフェ・オレとハーブティーでよろしかったでしょうか」
3.「本日は、店内でお召し上がりでよろしかったでしょうか」
この3つの「よろしかったでしょうか」の使い方で、みなさんが違和感を感じるのはどれでしょうか?
〔1〕は、話し手がこの発話以前に行った過去の行為が、聞き手にとって都合がよかったかどうか、あるいはその行動が正しかったかどうかを聞いている文です。
過去の行為について言っているので、「よろしかった」という過去形を使っていても問題がないと感じられることと思います。
〔2〕は、会話の中で初めて確認するのに、まるで過去に一度聞いたかのように過去形を使っています。この言い方には多少違和感を覚える方もいると思います。
一方、「ご注文」の部分が、「先ほどご注文されたのは」という過去の行為についての話にも聞こえるので、そう考えると多少違和感が減るのではないでしょうか。
ちなみに、一度聞いた注文を忘れてしまい、再度確認しに戻ってきた場合でしたら、問題ない使い方です。
〔3〕のような聞き方も、ファーストフード店やレストランで店に入るなりいきなり聞かれたりすることがあります。これらの場合は、これが最初の会話なのに、過去形で聞いてくるために大きな違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。
では、こうした過去形はどういう意図をもって使われているものなのでしょうか。
元々、北日本などで使われていた同様の表現が広まったものだという説もありますが、この表現が使われるのは比較的フォーマルなことば使いが要求されるシチュエーションです。
丁寧に物事を伝えたいという気持ちから来る過去形の使い方なのです。
「距離感」のある表現が「丁寧さ」につながる
過去形を使うことは、しばしば丁寧さにつながります。現在形は、目の前にいる相手と同じ世界で話しかける話し方ですから、ある意味、「直接的」な話し方です。
一方、過去形を使うと、話し手と聞き手が話している「現在」の世界ではなく、過去の世界に話を移して表現していることになります。
現在形でそのまま言えば良いところを、過去に一度戻っていうわけですから、時間的に遠回りな、距離を置いた言い方になります。
つまり、「非直接的」な話し方になるわけです。距離感を出した表現というのは、丁寧表現の基本原理のひとつです。
さらに、通常の言い方より一手間かけているということ自体が丁寧表現の基本原理に則っています。そもそも敬語体系というのも、実はもっとシンプルに言えばいいところを、小難しく言っています。
手間を加えた言い方は、言いかえれば、言ったり理解したりするのが大変なことばということです。
苦労をするということは、聞き手との会話のために気遣いをするということですから、相手のために労力を惜しまず、誠意を込めているということになります。敬意を払っているからこそ一手間入れていると言えるのです。
身内への敬語も「丁寧さ」の表れ
また、身内や同じ社内の人間に関する発言なのに、「母に~していただきました」「HIROさんが~してくださって」のように、本来、敬語を使って表現すべきでないところで敬語を使ってしまう例が散見されます。
これらも、上述の「よろしかったでしょうか?」と同様、「丁寧に言いたい」という気持ちが、既存の敬語の表現方法を拡大して使ってしまっている例です。
身内でも敬うべき人だからこそ、敬意を表現したいという気持ちが先走って生み出した表現だといえます。
ただ、「よろしかったでしょうか?」の例とは異なり、「愚息が~」や「愚妻が~」という言い方に代表されるような身内を持ち上げない日本独特の文化的要因によって、身内には敬語を使ってはいけないという「禁止ルール」が出来上がっているために誤用と判断されています。
ちなみに、尊敬が過剰になっているものとして、「先生はお帰りになられました」という表現もあります。
本来は「先生はお帰りになりました」で済むところを「お~になる」と「~られる」という二重の尊敬語を使った表現となっていることが問題とされています。
これは、「お~になる」の「お~」という表現が、尊敬語というよりは、単なる丁寧表現のレベルとして捉えられるようになってしまっていて、いっぱしの尊敬語として認識されないために、別の尊敬表現である「~られ」を追加してしまっていると考えられます。
「~させていただきます」の誤用は多い
そして、「~させていただきます」という表現。これは、本来は相手の許可を得る必要があり、かつその行為によって発話した人が恩恵を得られる行為について用いるものです。
なので、冒頭の「卒業させていただく」は話す相手の許可を得ることではないので誤用ということなります。
似たような誤用としては、「本日講師を務めさせていただきます」や「拝見させていただきます」があります。
前者は特に聴者の許可も話者の恩恵もないのに使っている点で本来の用法からは外れていますし、後者はそもそも二重の尊敬語になっている点も問題です。
同じ「~させていただきます」でも、たとえば、パーティーで急に挨拶のスピーチをお願いされて、「では、ご指名いただきましたので、僭越ながら、私からもご挨拶させていただきます」というような使い方は問題ありません。
司会者から許可を得て発言し、スピーチをするという名誉のある行為をする役目を得ているためです。
また、日本語学では、謙譲語は「~に」や「~を」を伴って表される人物が敬意を表したい人物であるときに使う表現とされています。
そう考えると、「(会場のみなさまに)ご挨拶をさせていただく」は使えても、「(あなたに)拝見させていただきます」、あるいは「本日(みなさまに)講師を務めさせていただきます」とは言えないために後者の2つは奇妙な使い方になっているとも考えられます。
結局、本来の使い方ではない「~させていただきます」は、もはや謙譲表現ではなく、話者が「謙遜」を表現したいという気持ちがあるために生じた新しい謙遜表現であるといえます。
言語は生き物ですから、常に変化、そして進化していきます。しかも、そういった変化は若者世代から起こり、徐々に標準化していくのが世界中の言語に見られる傾向です。
現在の若者のことば使いに眉をひそめているその元若者も、そのさらに前の世代の元・元若者たちからは、「乱れたことばを使っていてけしからん」と眉をひそめられていた可能性が非常に高いです。
ですから、若者の新しい敬語の用法に接しても、違和感を感じつつも目くじらを立てたりせずに、言語の変化の過程を目撃する貴重な機会に恵まれたと考えて、心穏やかに見守っていくのがいいかもしれません。
堀田秀吾(言語学者・明治大学教授)
[via:現代ビジネス]
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73746
東海大生200人に敬語に関するアンケート
ネットの反応
・させていただき~の連呼苦手
・させていただいた厨本当に気持ち悪い
・やたらといただくやつ確かにいるな
>特にEXILEとか三代目の連中に多い
・いただく教はいったん滅びればいい
・EXILEのは流石に当て付け過ぎない?
>バカ隠すためにみんな同じ変な敬語
・あと「大丈夫です」も意味不明。結構ですとか、今回は見送りますとかはっきり言えないんだよ。
ばかにしてるだけ
・(´・ω・`)慇懃無礼というか、逆に馬鹿にされてると感じるよね。
・営業マンに多い。~の方から、~という形で、お伺いさせて頂く、など。
・非効率の塊
・日本語は緩やかに変化していく。誤用が常用となり、辞書にも明記される言葉は多くあります。目くじら立てず、受け入れましょうよ。
・「言葉は生き物」←国語を勉強してこなかったバ○の言い訳
・「よろしかったでしょうか」は丁寧語よりも過去形にしてることが問題やねん もう決めてしまってる風を装って覆せないという圧力にしてるねん
・過剰の方が距離を置けるから対応が楽なのよ逆に気を使わないっていうか オフ気味に接するとトラブルになりがちネットで汚い言葉遣いしてる反動もあるんじゃないかと思います。
・国会議員なんかもかなりおかしな敬語使ってる。若者だけじゃない。
・その頃都知事は、藪からスティックに都民ファーストステイホームを東京アラート連呼していた
・敬語の使い方云々の以前に、そういう言葉を使うことで相手(受け手)がどう感じるかを考えないと。
・そもそも社会全体として、目下の相手などに過剰な丁寧さや自分に対する敬意を強要する人が多いから、自然と防衛として敬語が過剰になってるのでは。
・ある種の盾やね
・「させて頂く」に関しては若者とは言われない年代の人も連発しているからなぁ、そのように言わなきゃ礼儀知らずだと思われるかも、ってのが連鎖しているんだと思う
・敬意逓減ですね。敬語の敬意は時間とともに下がっていく傾向があります。「お前」も「貴様」も敬称でしたが今では碑罵語に成り下がっています。
・これは最近大人も使ってるが「お~になられる」も敬語の重複で正しくない。「お~になる」又は「~れる」のいずれかでよい。
・二重敬語では無いけど「頑張らせて下さい。」が嫌い。よくAKBの娘達がファンに向かって言ってるけど。
・でも言葉遣いにうるさい人ほど「お伺い」等の凡ミスには気づかないよね
・「申し訳ございません」もちょっと違和感。申し訳なく存じます、が正解
・「ポイントカードはおもちだったでしょうか」と聞かれるとフリーズしてしまう
・「拝見させていただきます」なんて二重敬語が当たり前のようにまかり通っているからな…
・敬語とはちょっと違うけど、レジで「1000円からお預かりします」とか言う言い回しが気になってしょうがないんだけど