近年注目が集まるエネルギー分野に携わる某省庁勤めは激務とされる。
精神的に参ってしまっている人間は多いらしく、鬱予備軍を含めるとかなりの比率で存在するとのことである。
とにかく残業の多さは半端ではなく、そこと付き合いのある某財団法人の間では「残業省シネ課○×・・・」と密かに呼ばれている。自殺者が多いからである。
「○○省のあの件だけど、先週担当が変わったから」
某財団法人の新人にはその意味が良く分からなかったが、先輩社員がこっそり教えてくれる。突然の担当変更の理由は辞職か自殺かのどちらかで、つい最近会った時には元気に見えても心は病んでいたのか、急にお亡くなりになるケースが多いのだとか。
そんな自殺の多い省庁であるが、取った対策は「窓から見える風景」に工夫を加えることだった。
駅のホームに鏡が置かれている理由は死を決意した自分の表情を見ることで、冷静さを取り戻し自殺を思い留まってもらうためと云われている。
ホームの鏡のように冷静な判断力を取り戻させる目的で行われている工夫とは、高階の窓から下を覗き込んだ時に地面が見えないように設置位置や窓の開き具合を調整することらしい。
飛び降りを頭の中でシュミレーションしたとき「他の建物の屋根に落下して死に損なうのでは?」とか「あの構造物に直撃するのは痛そうだ」という思いを起こさせて自殺を思い留まらせる風景を作るのだという。
窓枠に鉄格子を嵌めるのではいかにも自殺が多いという印象付けになるので、そういう対策が取られているという話である。その一方で仕事は増えるばかりで、残業の削減やカウンセリングなどに時間と労力を割く暇はないらしい。根本を断つのではなく、窓に工夫を施すという処置から見えて来るのは、「死ぬなら職場以外で」という意図である。
自殺、心の病、体を壊した…様々な理由で職場を去る人間に対して、現役組の反応は事実冷ややかであり良く聞かれる言葉は…
「あの人はそれまでの人物だったんだね」