ここまで見てきたように、外食チェーンのメニューには脂質や飽和脂肪酸の「非公開の罠」が潜んでいる。掲載のリストは、取り上げてきた、外食チェーンのメニューの総まとめだ。
「カロリー」「塩分」「脂質」の3要素、そのいずれもが目安値を超過したメニューの「72商品ランキング」である。(以下は「週刊新潮」4月11日号掲載時点の情報です)
おさらいしておくと、厚労省によれば、各要素の、一般男性や身体活動量の高い女性における1食の摂取目安値は、カロリーが850キロカロリー、脂質は23・6グラムである。
また塩分はWHO基準で1日5グラム。この目安値を参考にしつつ、各栄養素を過剰に摂取し続けると、例えば塩分であれば高血圧を招き、その結果、脳卒中、心疾患、胃がんのリスクが上昇する。
脂質とカロリーの過剰摂取による弊害は、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)の「肥満が招く三大疾患」に象徴される。
再びランキングに戻ると、順位はカロリーを基準にしている。
そして、塩分=食塩相当量が目安値の1・5倍である7・5グラムを超えるものに「★」印を、脂質が目安値の3倍である70・8グラムをオーバーするものに「♦」印をつけている。
念のため改めて断っておくが、印のないものも目安値は全て超過していることをお忘れなきように。また「公平性」を担保するために、大盛やメガ盛などは対象外としている。
1位の「豚肉とキクラゲ玉子炒め定食」をはじめ、10位までのうち6メニューを占めたのが中華系ファミレスのバーミヤンだ。
「中華料理は調理の過程で油を多用するため、脂質、そしてカロリーが高くなる傾向があります。それにしても、バーミヤンは1食で千キロカロリーを超えるメニューが目白押しで驚きますが、それを公表する姿勢には外食産業としての“責任感”を感じます」(女子栄養大学の専任講師で管理栄養士の小澤啓子氏)
また、日本人の「国民食」とも言えるカレーの最高値は、カレーハウスCoCo壱番屋の「トリニク三昧カレー」(3位)。ポークカレーが505円であるのに対し、同商品は1437円というココイチにおける“セレブメニュー”である。
管理栄養士で食生活アドバイザーの堀知佐子氏が解説する。
「人間の五つの味覚のうち、『甘い』『しょっぱい』『うまい』の三つは、乳糖、血液の塩味、そして脂肪と、いずれも母乳を飲んでいる時、つまり生まれた時から感じている快楽に由来します。
したがって、『甘い』『しょっぱい』『うまい』を強くすると依存症になってしまう。カレーライスやマクドナルドのフライドポテトはその典型です。
ちなみに、残りふたつの味覚の『酸っぱい』『苦い』は、学習することによって身についていく。子どもの時に飲めないビールが大人になって飲めるようになるのはそのためです」
さらに、牛肉などに比べ、一見、ヘルシーなイメージのある鶏肉を使ったメニューも多くランクインしていることが分かる。
「親の味の嗜好は子に…」
外食チェーンのメニューの注意すべき点を総点検してきたが、メニューの栄養成分以外にも留意しておくべきことがある。各チェーンの情報公開に対する姿勢だ。
デニーズや大戸屋のように3要素全ての数値をホームページで公開しているところもあれば、王将は一切の情報を非公開。かと思えば、ジョイフルはカロリーと塩分の量は教えてくれるのに、なぜか脂質量に関しては頑なに隠す。
王将は非公開の理由を、各店舗で差があるためだとし、また「不思議」な一部非公開を貫くジョイフルに脂質量を尋ねた際、広報担当者は、
「もちろん、弊社でも栄養成分は調べて管理しておりますが……」
とした上で、
「ウェブ上で出しているもの以外はお見せすることはできません。うちは(ヘルシーメニューで知られる)タニタさんではありません」
こんな見解を示した。それはそうかもしれないが、見事な「開き直り」だ。
最後に横浜創英短大の則岡孝子名誉教授(栄養学)が、外食チェーンは「外」に留まらず「内」にも影響を与えるとして、こう警鐘を鳴らす。
「今の時代は、多くのお母さんが仕事を持つようになったことで、家で食事を手作りすることが難しくなっています。そういったお母さん、そしてお父さんの味の基準は、だんだんと外食の味にならされてしまう。
そして、その親の味の嗜好は確実に子どもに受け継がれます。そうなると、これからは家庭料理の味付けも、もっと濃くなっていくかもしれません。それが一番怖いことだと思います」
人は食、食は人。
「外」の食の煽りを受け、家の「内」の食が変わる。それはすなわち、人そのものが変わってしまうことを意味する。「しょっぱすぎる人」が増えてしまったりしないことを願うばかりである。
[via:デイリー新潮]
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/05070800/